新型コロナからの回復の兆し
海外に置くエージェントからは常に最新の海外旅行市場の情報が入ってくる。彼らは、それぞれの国のメディアや旅行会社との広いリレーションを有する。30年にわたり海外政府観光局やDMOをクライアントに活動してきている会社もある。新型コロナの影響を受ける前からオンラインミーティングが通常のコミュニケーション手段であったため、制限の厳しい米国や英国等のリアルな現状を垣間見ることになる。ただ、そうした中にあって感じるのは、彼らとのミーティングはいつも前向きであるということだ。それぞれの国における変化の兆しにアンテナを張りながら反転攻勢の機会を伺っている。旅行会社にはすでに東京OPの時期の旅行手配の依頼が入り始めていて、エアラインの再開に向けて日本への旅を企画して欲しいという依頼もあるという。まだこれらはレアケースかもしれないのだが、こうした会話の中でレジリエンス(Resilience)という言葉がよく使われる。「復元力、回復力」、「困難な状況下でしなやかに適応し生き延びる力」という意味なのだが、私が関わる国の中では、レジリエンスが高いのが英国や豪州であり、特に豪州は既に動き始めていると。日本のインバウンド需要の回復は必ず訪れると思える希望に繋がるエピソードだ。
需要回復への備え
一方、国内はどうか。国内市場への回帰や当面のインバウンド対策の凍結を打ち出す自治体やDMOが多くあるなど、2020年度は迷いと混乱の中でスタートした。私が関わるDMOや自治体も例外ではなく、4月、5月は非常に慌ただしかった。デリバリーサービス提供事業者のWEBサイトでの掲載、地域産品のお取り寄せサービスの開始、さらには今や欠かせないものとして認識されるようになったオンライン対応、つまり遅れていた地域事業者のデジタライゼーションに取り組んできた。これらは直面する危機を乗り切るために動き始めたもので、DMOが本来行うデスティネーションマーケティングからは離れてしまったかもしれない。しかし、こうした取組は共通した認識が基となっている。一つは、従来とは異なる新型コロナとの共生の中で生まれる“新たな市場”に合わせた地域マーケティングが必要となってくるということ。そして、本格的な需要回復期に向け今からその準備が必要であるというものだ。つまり、対症療法的な一時的な効果を狙った対策ではないということである。こうした取組をDMOが牽引することで、自治体や地元商工会議所の動きが繋がり地域マネジメントの形が作られていき、今まで以上に力強く様々な課題にも対応できる観光地が形成されていくのではないかと思う。
レジリエンスを高める
新型コロナの影響で国内需要が大きく高まる幻想は持たない方がいい。そもそも国内需要の限界からインバウンドに活路を見出してきた。こうした視座に立つDMOや自治体では、インバウンドの取組を途絶えさすようなことはしていない。これから訪れる需要回復に備え足元に注意を払いつつ先を見据えている。そして日本には2021年の東京OPがある。希望を持てる大きな理由がある。もしそれがなくなることがあれば、また別のチャンスが訪れるだろう。そうした希望を忘れないことが、我々自身のレジリエンスを高めることに繋がるのだと思う。