データ分析の課題

デスティネーションマーケティングにおけるデータの活用をテーマにしたセミナーを依頼されることが続いた。主催者に聞くと、DMO設立やインバウンド対策を考える上で、何が課題かと自治体・DMO関係者にアンケートを行ったところ、「データの活用が重要だという認識はあるが、その活用方法がわからない」。「既存のデータの分析に加え新たな調査を行ったが、そこからは戦略・戦術は見えてこなかった」という意見が多かったという。
これはよく陥る思考によるものだと言える。「データ」を眺めていても、それだけでは「何か」が見えて来ることはない。戦略・戦術は、DMOなどの組織が有するミッション、マーケティングの基本やインバウンマーケティングのセオリーに基づいて組み立てるものだ。このため、その基本やセオリーを知らなければ、調査や分析を繰り返し、そこから出るはずのない答えを探し続けることになる。デスティネーションマーケティングに限らないことだろうが、見るべきデータは3つに区分できる。まずは、自分たちのスタート地点や課題を理解するための「現状」に関するデータ。次に見るべきはターゲットとするべきマーケットの選定やその攻略方法、つまり「可能性」を見出すデータ。最後は、現状を把握し可能性を見極め、打ち手を講じた「結果」の検証のためのデータだ。
多くのデスティネーションでは、最初の現状把握のためのデータ活用にとどまっているケースが多いように思う。現状だけ見ていても将来の可能性はなかなか見えてこない。

可能性を見出すためのデータ

インバウンドマーケティングを例に考えると分かりやすい。例えば、米国における海外旅行者は7000万人もいる。ロングホールの旅行者はその内4割程度とのデータもあるが、それでも3000万人はいる。一方、私が関わる瀬戸内を例にあげれば、来訪者は年間10数万人程度だ。

この場合に見るべきデータは何か。
最も見るべきは、潜在顧客とも言える来訪の可能性があるものの「来訪に至っていない旅行者」のことではないだろうか。ここに大きなチャンスがあるはずだ。既に来訪した旅行者を見ていくことで、未来訪者の興味・関心などを推測することは可能だ。しかし、これらは推測でしかない上に「来訪しない理由」、「来訪できない理由」は分からず、来訪者が増加する可能性や来訪を促すための打ち手は見えて来ない。

地方が見るべきデータ

これまでも幾度か訪日外国人の数における都市部と地方部の格差を取り上げた。「訪日した」外国人を日本全体で「一括り」にした調査データを見ていても、地方に来ない原因やその対策は見えてこない。
まずはセオリーに沿って戦略・戦術のフレームを組み立てる。その上で、調査すべき対象や見るべきデータを考える。地方への旅行者はまだまだ少ない。未だ地方へ訪れたことのない旅行者をどう呼び込むのか。この目の前にある課題に正面から向き合い、その事実や原因を表すデータを正しく捉えることができれば、自ずとその価値や見え方はわかってくるのだと思う。