広域デスティネーションマーケティングを進める上で1つの理想形と言える試みがスタートする。広域DMOであるせとうちDMOと愛媛県大洲市を中心に活動する地域DMOによる連携だ。
大洲のDMO
大洲のDMOは昨年8月に立ち上がった。市内には城下町に広がっていた町家や明治時代に建てられた数寄屋建築などが今でも残る。自治体や地方銀行も加わり、地域に残る歴史資源を活かした観光地づくりが始まっている。
2020年には、大洲城に一日一組限定で宿泊が可能な「キャッスルステイ」や町家をリノベーションした宿泊施設もサービスインする。さらには隣町の内子町とも連携していく。地域の基幹産業であった木蝋(もくろう)で栄えた街並みは、重要伝統建造物群保存地区にも指定され歴史的価値も高い。地域DMOだからこその地域資源の磨き上げが進む。
また、せとうちDMOもプロモーション活動において大きな成果を出し始めている。昨年から「ニューヨークタイムズ」(米国)や「ナショナルジオグラフィック」(英国)などの複数の海外有力媒体に、「SETOUCHI」を今年行くべきディスティネーションとしてランクインさせている。また海外旅行会社等とのリレーション構築にも取り組み(2017.10以降)、その数はすでに500社を超える。各市場におけるメディアや旅行業界との強力なパイプを築き始めている。
しかし、それぞれが課題も抱えている。
大洲や内子は、地域資源の特性から対象市場は欧米が有力だ。特にフランス人旅行者は日本の原風景を求めており、打って付けと言える。
課題はどうやって欧米旅行者に知ってもらい、訪れてもらうのか。
ナレッジやネットワーク不足などから、単独で行うプロモーションには限界がある。この地域の文化歴史への理解と興味を持つ旅行者を狙って、年間を通じて呼び込むためには、戦略的でダイナミックな取組が必要だ。
一方、せとうちDMOは広域エリアのマネジメントをミッションとする。エリアの魅力を高めるにはプロダクトの充実が欠かせないのだが、広いせとうちエリアの各地にどうプロダクトを充実させていくのか。広域であるがゆえの課題がある。
こうした課題に対し両者が見出した答えが、「連携による機能補完」だ。
抱える2つの課題を、前述のそれぞれが持つ強みが補うことで解決していく。
プロモーションとプロダクト開発
ともに必要であることは言うまでもないが、1つの組織の中で2つの機能を持つことは簡単ではなく、役割分担論が語られることも多い。
しかし、大事なことは役割を分担することではなく、目的を共有し必要な役割を各々が担うという共通認識を持つことと連携ための枠組みを整備することだ。そして、つまるところは、地域の中で2つの機能が揃い連動していれば良いのである。今回の協定締結は両者が必要に迫られ実現したが、こうした連携は理にかなっているのだろう。すでに他のDMOにも広がり始めている。デスティネーションマーケティングの一つのセオリーとなって行きそうだ。