COLUMN

ディスティネーションマーケティングの現場から / Vol.6

フランス人旅行者

文:村木 智宏(株式会社Intheory 代表)

島根県出雲市にある宿泊施設で、最近フランスの方からの予約が入るようになったと報告をもらった。その宿は出雲大社から一山越えた日本海側に面する漁業集落の古い町並みの中にある。日本の旅行者でも、それなりに旅慣れた人でなければ訪れないような場所だ。その施設は、赤い石州瓦が美しく、おそらく築後100年は経過していると思われる古民家を最小限のリノベーションにとどめた作りになっている。

また、旅先としては出雲以上に知られていない、むしろ日本の最果てとも言える長崎の五島列島でフランス人旅行者に出会った。2週間程度の休暇を取り訪れた日本の旅の最中に五島列島まで足を伸ばしたという。理由を聞けば、日本といえば東京と考え訪れたのだが、日本の都市部だけでなく自然のある地方、よりオーセンティックな日本にも触れてみたいと思い、東京から最も遠くにある「大きな島」(外国人から見るとそう見えるのだろう)である九州に来たとのこと。しかし、訪れた博多は、東京と変わらないほど近代化した都市であったために、さらに西へ向かい、ついにたどり着いたのが五島列島であったという。

同じ離島である新潟県の佐渡でもフランス人が旅をしていた。佐渡の西の端にある宿根木集落。江戸や明治、日本の物流・経済支えていた北前船などを扱う船大工の集落が、その当時の姿そのままに残る地域だ。日本人の旅行者であれば、団体ツアーで訪れる大型バスかレンタカーを借りて訪れるのが一般的であるが、そこにフランス人旅行者が1日に数本しかない路線バスを使って訪れていた。集落の前にあるバス停のベンチに座って、目の前の波食台が広がる美しい海岸を眺める姿は、その海岸の成り立ちを理解する教養を持ち、なにより世界中を旅してきた旅慣れた旅行者であるように感じた。

こうしたエピソードに枚挙にいとまがないのがフランス市場。欧米豪の旅行者から人気が高まる一方の日本だが、フランスはとりわけ地方との相性が最も高いように思う。フランスは、日本と同様にハイコンテクスト(文脈・背景を読むコミュニケーションが特徴)な性質を持つ国という共通点があることもその背景にあるかもしれない。いずれにしても、この相性の良さは生かすべきだろう。フランスの旅行市場の規模を考えると打つ手は様々ある。日本を扱う旅行会社も特定しやすい。

昨年から新潟県のフランス市場マーケティングが本格化している。その手応えがすでに感じられるレポートも多く上がってきている。来年以降、東京や京都より遅れてくる新潟の桜やその後のグリーンシーズン、そして新潟のアイデンティティである雪のシーズン。フランス人旅行者がどんな旅をしているのか今から楽しみだ。

(合同会社Tourism Exchange Japan ウェブサイト掲載コラムより転載)