ディスティネーションマーケティングの現場から / Vol.5
日本の地方こそ欧米豪市場
文:村木 智宏(株式会社Intheory 代表)
四国の山深いエリアの宿泊事業者の方の話。「うちの宿に泊まっていくのは、多くは欧米からの旅行者。アジアの人たちは都市部に宿泊して、川下りの体験だけして帰ってしまう」。欧米とアジアの旅行者の違いを表すエピソードだ。
和歌山、奈良、三重県が広域に連携し、欧米豪市場へのアプローチを始めている。自然や巡礼路をUSP(ユニーク・セリング・プロポジション)としてマーケティングを展開する。最近では、世界のトップ媒体であるVOGUEやForbesをはじめとした多くのメディアが取り上げるようになり、世界の富裕層旅行者マーケットの中心にいるVirtuoso(旅行会社等のコミュニティ)がこの地域の旅を提案するようになった。
また、今年から本格的に欧米豪市場への参入を開始した新潟県は、英国メディアのBBC(英国放送協会)が昨年と今年、続けて新潟の旅を取り上げている。
2016年に発足したせとうちDMOも、当初はアジア市場中心の戦略を立てていたが、2017年から取り掛かったのは欧米市場で、その後の成果をいうまでもないほどのものとなった。
そこには共通するポイントがある。つまりこれらの地域は、世界の旅行者のトレンドに合っているということ。世界のトレンドにはいくつかキーワードがあるが、中でも重要となるのが、サステナビリティへの意識の高まりだ。レスポンシブルツーリズムやリジェネラティブツーリズムなど、地域の自然や歴史文化、暮らしへの配慮や貢献を重視し、旅先へのリスペクトを持って訪れるという考え方。そのトレンドの発信源は欧米。そうした旅の潮流に照らしてみると、世界で類を見ない多島美景観を持つ瀬戸内の価値、世界に二つしかない世界遺産巡礼路が広がる紀伊半島の歴史や自然、そして雪国の暮らしや日本の原風景が今も残る新潟、これらが欧米諸国から注目されるのも腑に落ちる。つまり、自然豊かで歴史や食文化も楽しむことのできる日本の地方は、欧米豪の旅行者との相性が良いということになる。
その一方で、欧米豪へ取り組む日本の地方は少なく、コロナ前から訪日外国人が多い東アジアや東南アジア諸国をターゲットする地域が多い。その理由を聞けば、「地方空港は欧米豪からの直行便を持たない」「日本の旅行業界は欧米豪の市場の開拓を行なってきていないために頼れる相手がいない」「こうした状況で欧米豪をターゲットとしたところで十分な成果が期待できない」ということのようだ。しかし、いずれも誘客を妨げるものにはならず、制約条件の一つという程度でしかない。2週間程度の旅程で訪れる欧米豪の旅行者が巡るエリアは非常に広く、イン・アウトは拠点空港で国内の移動は鉄道を好む傾向もある。また、欧米豪の市場開拓は本来、国内旅行会社を通じて行うものではなく、現地に直接アプローチして各国の業界とのリレーションを築いていくものである。
欧米豪の旅行者が多く訪れるようになった瀬戸内エリアの実績もあるように、裏付けとなる戦略と市場開拓の要となるネットワークは確立されており、どの地域でも再現可能なものである。世の中の価値観の変化やそれに伴う旅行トレンドは、今後も大きく変わらないメガトレンド。日本の地方こそ欧米豪を狙うべきではないだろうか。
(合同会社Tourism Exchange Japan ウェブサイト掲載コラムより転載)
