COLUMN

ディスティネーションマーケティングの現場から / Vol.9

旅行者像を考えること

文:村木 智宏(株式会社Intheory 代表)

インバウンド6000万人時代が到来すると仮定しよう。その時、一体どんな旅行者が訪れることになるのだろうか。

今、日本の多くの自治体や広域エリアがインバウンドの目標数を掲げているが、その多くは「どこからか訪れるであろう6000万人」の一部を呼び込むことを前提としている。つまり、自ら需要を開拓する想定になっていないということだ。

先日、東北エリアを主戦場とする企業の方とお話をした。掲げている目標は、「現状、全国シェアの数%に満たない東北への来訪比率を大きく伸ばしたい」というものだった。

そこで、疑問が湧く。仮に全体が6000万人に達したとして、その旅行者たちは本当に東北へ足を運ぶのだろうか。そもそも人は、見たいものしか見ないし、聞きたいことしか聞かない。旅に求めるものがなければ、その地を訪れることはない。すなわちシェア拡大の目標は、「東北にあるものを求める相応の数の旅行者」が6000万人の中に含まれていることが大前提となる。

すでに訪日外国人は4000万人に迫ろうとしているが、現状、東北への来訪はわずかだ。この延長線上で6000万人時代を迎えたとしても、その中に東北への旅を求める人がどれほどいるだろうか。「現状」はこれまでの戦略や行動の結果であり、戦略が大きく変わらなければ、結果もまた然りである。

こうした受動的な考え方に陥ってしまう背景は理解できる。誘客の手法を知る人材が限られる中では、政府観光局のプロモーションによるある種の“自然増”の受け皿を作ることや、航空会社への資金提供というパワープレーで訪日者数を増やすことに終始せざるを得ないからだ。

しかし本来、地域への来訪者増はマーケティング施策によって実現すべきもの。なぜなら、地域の持つ根源的な価値と、それを求めて訪れる旅行者が一致して初めて、双方にとって幸せな形での地域振興が可能となる。オーバーツーリズムの問題も同様。戦略が抜本的に変わらない限り、都市部への集中は抑えられないし、結果として地方へ人を流すこともできない。

こうした基本認識に立てるかどうか。マーケティング思考で戦略を組み立て、それを実現するためのナレッジとネットワークを備えられるか。

「Setouchi」、「Kanazawa」、そして成果が出つつある「Kii Peninsula」。これらの地域はそうした要件が揃ったことで大きな成果を上げている。これらをロールモデルとして、どの地域でも実現可能なインバウンドマーケティングを提唱していきたい。

(合同会社Tourism Exchange Japan ウェブサイト掲載コラムより転載)